秋山義人の「シングルモルトウィスキー天国・日本」
【シングルモルトウィスキー天国・日本】
Vol.1
葉巻に合う酒は何だろう?
飲んでみると結構色々な酒が合うという結論に達した。
映画だとだいたいブランデーが多い。
私もブランデーが一番好きだ。
だが、どうも最近の有名なブランデーは好きになれない。
色々理由があるのだが、それには今は触れない。
古いブランデーがおいしいのだがバーで飲むとかなり高い。
自分で酒屋に行って買おうと思ってもどれを選んで良いか難しい。
バーで飲んだブランデーの中にはバーテンダーが苦心してやっと見つけたものがあり、おいそれと街の酒屋には置いてないのだ。
その点シングルモルトのほうが良いものを見つけやすい。
そして葉巻とシングルモルトは結構相性が良いと思う、もちろんあわせ方によるが。
シングルモルトがブームだ。
テレビでもウィスキーのCMでシングルモルトという言葉を耳にすることがある。
たとえば小さな蒸留所エドラダワ-はお酒と関係のない三菱証券のテレビCMで有名になった。
シングルモルトと言っても知っている人は知っているし、知らない人は知らない。
一般的に知られているウィスキー、たとえばジョニー・ウォーカー赤とか黒、そしてブルー、シーヴァス・リーガル、オールドパー、カティー・サーク、
バランタインとか広く飲まれているウィスキーはブレンデッド・ウィスキーと言う。
シングルモルトを色々ブレンドし、それに別の原料で作ったグレーンウィスキーを混ぜて熟成したものである。
シングルモルトとは単一の蒸留所で大麦にイースト菌を加え蒸留して作られたウィスキーのことである。
たとえばグレンフィディック、グレンリヴェット、マッカランとか多分ホテルのバーとかあるいは街場のバーとかでご覧になった方も多いと思う。
ウィスキー全体の売り上げではシングルモルトは多分10パーセントにも満たない。
正確な資料が手許にないのでなんとも言えないが要はマイナーなウィスキーである。
だから本当はブームとは言えない。
それにもかかわらず敢えてブームと言わせていただくにはわけがある。
日本のシングルモルト市場はある面で世界一である。
このことはいろいろな方から聞いた。
ウィスキーにものすごく詳しい在日20年以上になるアメリカ人が言う。
「日本でこれだけシングルモルトを飲んでいるとアメリカに帰ると嫌になります。
東京ではシングルモルト100種類以上置いてあるバーが数え切れないほどありますがアメリカにはほとんどありません。
ロンドンにもあまりないでしょう」とのことだ。
確かにロンドンでさえ、あまりシングルモルトを見かけなかった。
以前書いたが世界に冠たるグランドホテルクラリジズでさえシングルモルトの品揃えはたいしたことがない。
日本でなぜこれほどシングルモルトが人気があるのだろうか?
歴史的な経緯は良くわからないがバーテンダーがマニアックでいろいろウィスキーを取り揃え始めたからではないだろうか?
【シングルモルトウィスキー天国・日本】
Vol.2
シングルモルトウィスキーの新しい波
随分ご無沙汰してしまった。
ちょっと就職していたのでなかなか多忙で書く時間はあっても疲れて書けなかった。
というかサボっていただけだけど。
シングルモルトに関しては最近面白い出来事があった。
シングルモルトはたとえばサントリーが自社ブランドやスコットランドで傘下に置いている蒸留所のウィスキーのセールスにかなり力を入れている。
電車の広告を見ればわかると思う。
以前よりシングルモルトと言う単語が一般の愛好家に知られるようになったと言ってもいいだろう。
そうはいっても普通のバー(ホテルでも街場でも)で取り扱っているシングルモルトはせいぜい20種類くらいだろう。
私が葉巻を楽しみに行くバーはものすごくお酒に力を入れているバーばかりであり、
それらのバーの品揃え、特にシングルモルトは半端ではない。
世界に冠たる日本のバーである。(これに関しては次回のテーマである)
だが、これらのバーは特別。一般にはそれほど多くのシングルモルトが眼に入ることはない。
ブレンデッドウィスキーが主体でシングルモルトではグレンフィディック、グレンリヴェット、グレンモーレンジ、マッカラン、
ラフロイグ、タリスカーあたりが結構ポピュラーなところだろう。
デパ地下にあるウィスキーはオールドパーとかシーヴァス・リーガル、ジョニーウォーカーなどのブレンデッドウィスキーが主体であり、
シングルモルトは少ない。数種類しかないところも多い。
ところが最近驚いたことが起こった。
伊勢丹の地下である。
伊勢丹は新館がリニューアルして以来頻繁に通っている。というか昔からすごく利用している。
その伊勢丹本館の地下がリニューアルし、バーが出来たのである。これはすごい。
たった4席のバーであるが昼の2時からウィスキーが飲める。なおかつそろえられているウィスキーがすごい。
何十箇所の蒸留所の様々なウィスキーを取り揃えて販売しており、そのうちの何種類かはバーで格安に飲めるのである。
要は販売しているウィスキーをお金を取って試飲させてくれるのである。
ボトルの価格の23分の1、つまりバーでシングルのショットで出す分量を手数料とか取らずに飲ませてくれる。
普通バーではショットの価格は3倍である。
安いところで2倍、高いところでは4倍くらいの感じがある。
それにチャージが500円から高いところで2,000円。
それと比べると圧倒的に安い。
たとえばボトル6,900円のウィスキーを普通のバーで飲む場合。一杯300円。
その3倍として900円、900円くらいのウィスキーだと切り上げして1,000円になる場合が多い。
チャージが500円とすると1,500円。それがここでは300円で飲めるのである。
ウィスキーもアラン、グレングラッサ、グレングラント、ボウモアの35年ものとか様々。
特にアランは様々な樽のウィスキーがあるのでシャンパンやワインの樽で熟成したものを飲むと面白い。
優しく柔らかく、初心者でも楽しめるウィスキーだ。おまけに安い。
飲みなれた人には少し物足りないと思うが、樽による違いがわかるので便利である。
スタッフもバーテンダー経験者がいるので説明を聞きながら飲むことが出来る。
私は数度お邪魔しているがショッピングを済ませた主婦が二人で一杯ずつのみ、おいしいのでお互いにグラスを交換したり次のものを頼む光景に出くわした。
バーに行くと構える人がいるが、ここではすごく気軽においしいウィスキーを楽しめるのだ。
こういう試みをデパートがやってくれるのはうれしい。街の酒屋ではなかなか出来ない。
ここを訪れる人はシングルモルトってすごくいろいろな種類があり、熟成年数の違いや樽の違いを理解するようになり、
多分もっとそろえているバーにも顔を出したくなると思う。
そして、確かにバーではウィスキーは高いが、雰囲気やバーテンダーの
サービス等お金を払う価値があるのだということがわかるだろう。
その後現行品だけではなくオールドボトルと呼んでいる昔にボトリングされたウィスキーや閉鎖された蒸留所のウィスキーにはまるようになる。
そんな人が増えればバー文化ももっと理解されるだろう。
そして名前でウィスキーを選ぶブランド志向ではなく自分の嗜好でウィスキーを選ぶ愛好家が増え、シングルモルトが単なる作られたブームや
一部のコアなオタクのものではなく楽しい嗜好品として広まるだろう。
伊勢丹の試みはその第一歩ではないだろうか。
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