秋山義人の「イギリス紀行①」
第一回
イギリスは高い(1)
第一日目
取材でイギリスに行った。
といっても現地にいたのはたったの4日間。ロンドン2日、スコットランド2日のみの小旅行である。
目的は蒸留所めぐりをしてウィスキーの記事を書くこと。この4日間私は精力的に動き回った。
と言っても取材以外はバーとかホテルに行ったり買い物しただけなんだけど。
その旅で実感したのがイギリスの物価の高さである。
と言っても数日間であるし、消費者物価を調査したわけではないので生活実感というものはわからない。
贅沢に旅行するとかなり高いと言うことである。また、高級品、贅沢品は本当に高い。
この4日間に経験したイギリスでのショッピングは本当に高かった。
ロンドンに着いたのは日曜日の午後5時、
出迎えの車に乗りホテルへと向かう。
我々のホテルは「Royal Garden」それほど有名ではないが良いホテルである。
超一流ではないが一流くらい。一泊ツインのシングルユースで5万円くらい。
後でわかったのだがこのクラスのホテルは大体5万円くらいが相場だ。
この料金は東京で言えばパークハイヤットとかホテル西洋銀座くらいしか思い出せない。
私の旅はここからすでに「イギリスは高い」を実感していた。
ご招待で私は払わないので痛くも痒くもない。でも、私のためにこんなに使ってもらって悪い気がする。
割合大きなホテルでアメリカンスタイルなのが物足りない。
日本のホテルとさして変わりはない。招待された身で恐縮だが自分では泊まらないと思う。
私はロンドンでは小ぶりの居心地の良いホテルに泊まりたいからだ。
どんなホテルに泊まりたいかはあとで詳しく書かせていただく。
6時にチェックインし7時半にディナーへ出かけることに決まった。
その間の時間を利用し一軒ホテルのバーをチェックに出かけることにした。
時間を節約するためにタクシーに乗る。ロンドンのタクシーは世界一だそうだ。
住所を言えばその住所まで運んでくれる。ほとんどのホテルは頭の中に入っていると思う。
Lanesboroughと言うホテルに向かった。客室95室の比較的小さなホテルである。
ハイドパークコーナーの近くにありタクシーの運転手によると昔は病院だった建物をホテルにしたとの事。
東京ではこんなことは考えられないがヨーロッパは建築物を大切にし外見は変えずに内装を変更する。
以前は東京のホテル西洋銀座と同じくテキサスのホテルグループに属していたが今は別のグループのようである。
各室に執事がつきサービスが最高と評価が高い。ただし、私などは執事を使ったことがないし、執事が部屋に来てもどちらが執事かわからない。
居心地が良いかどうかは使う人次第である。
このホテルについて教えてくれたのは葉巻仲間である。
人の絶対数葉巻を吸うは少ない。
それだけにいろいろなところで同じ顔に出会う。そんなもの同士情報交換する。
Lanesboroughのバーは葉巻の品揃えがすごいとの話だった。訪英の前にHPでチェックしてみた。
珍しい葉巻がありそうだが価格を見て驚き、高いものは一本2万円から4万円である。
これは絶対にすえない、現地でゆっくりもっと安い葉巻を吸おうと考えHPを閉じた。
10分くらいでLanesboroughに着いた。ホテルに着きラウンジに席を取った。
コーヒーを頼んだ。コーヒーが大きめなポットからカップになみなみと注がれた。
イギリスのコーヒーは多分日本のコーヒーよりまずいと思う。でも、ここのコーヒーはおいしかった。
時間があれば全部飲み干したかったくらいだ。全部飲むには2時間くらいかかるだろう。
ラウンジの隣がLibrary Barである。バーのメニューを見せてもらった。
メニューには知らないブランデーとかワインが列挙されていた。
年代を見ると1925年とか1930年とか書いてあり価格は大体3桁である。
と言うことはポンドを単純に200円と考えると2万円以上である。
念のために「これは一杯の値段ですか?」と聞いてみると「左様でございます」との答。
一割くらいは2桁。それでも最低1万円くらい。ただし、ヴィンテージ物のブランデーは世界中どこでも高い。
だからこのホテルの価格が日本のバーと比較して高いのか適正価格なのか私には判断できない。
いずれにしろ一杯も飲めない。葉巻は高く通常の葉巻でも日本の1.5倍くらいだった。ヴィンテージシガーはちょっと手が出そうにない。
日本では法律により葉巻の価格は決まっているがイギリスは自由なようだ(ちょっと法的な問題を調べる時間がなかった)ホテルにより価格はかなり違った。
結局このホテルでは時間的な問題もあり飲まなかった。コーヒーは850円くらい。これはサービス、分量を考えると安いと思う。
急いでホテルに戻り一行6人でステーキのおいしいパブに向かう。
ヴィクトリア駅近くのパブの2階のレストラン。
ここの味はまあまあである。
その後スコットランドで色々食べたがスコットランドのほうがおいしかった。
もっともスコットランドでは三食ホテルのレストランでロンドンはパブのレストラン、おのずと質は違う。
翌日は朝早くスコットランドに向かうし時差ぼけもあるのでとりあえず自分のホテルに戻り一杯飲むことにした。
日曜日の夜なのでバーは営業しておらずレストランの隣にあるラウンジで一杯飲んだ。
シングルモルトのクラガンモアを一杯飲んだ。翌日行く蒸留所なので予習しておく必要がある。
約1,500円。価格は日本のホテルとほぼ同じ。葉巻は種類が10種類くらいしかなかったのと長いのがなかったのでボリヴァーのコロナス・エクストラにする。
日本では1,700円、このホテルでは3,000円と高い。一杯飲んで翌日のために早寝することとした。
好みではないと贅沢なことを言ったが部屋は広く(セミスウィート並み)清潔でバスタブも大きい。
とても良いホテルであることは確かだ。
第二回
イギリスは高い(2)‥‥いざスコットランド
第二日目午前
最初の晩は夜中に目が覚めてしまった。
時差ぼけで寝付けないまま朝の4時になった。
ここで寝てしまうと7時の出発に間に合わない。仕方ないのでゆっくり風呂につかりゆっくりひげを剃る事にした。
あとで詳しく書くが私はひげ剃りが好きである。今回は急いでいたので日本から持ってきた携帯用のシェービングフォームを使った。
私のひげは硬いのでなかなか剃れない。剃り残しが出来る。
満足できないのでどこかでもっと良いものを買おう。ゆっくり風呂に入ってゆっくりひげを剃って5時。さてどうしよう?
何もすることがないので外出することにした。幸い隣はケンジントンパーク、少し足を伸ばせばハイドパークである。
朝食は6時半にルームサービスを頼んであるのでそれまで散歩することにした。
誰もいない公園はとても気持ちが良い。
ロンドンは緯度が高いので初夏は昼が長い。
すでに外は明るく湿気の少ない空気はさわやか。水鳥が池を泳ぎ、野鳥が飛び、リスが目の前を走り去る。
だだっ広い公園を出て街中を歩いてみる。ところどころにカフェやプチホテルのレストランがある。
入りたい気になるが、何せ部屋にはフルコースのイングリッシュブレックファストが来ることになっているので食事はそれまで我慢する。
小一時間散策して部屋に戻り荷造りをすませて朝食を待つ。
6時半にルームサービスが届けられた。
イギリスの朝食は最高ですね、本当に。
テーブルに乗り切らない。とにかく品数が多い。
ジュース、パン、シリアル、卵料理、コーヒー、フルーツがテーブルに並ぶ。
ジャムの類も何種類か並ぶ。それぞれが大きい。
卵は3個分、ベーコンとソーセージがたっぷりとつく。
多分カップ10杯分くらいのコーヒーがポットには入っているのだろう。
パンはクロワッサン、トースト、ブリオッシュ等々これを全部食べる人がいるのだろうか、残ったパンはどうなるのか気になる。
以前ロンドンの別のホテルで朝食をとったら一日何も食べられなかったことを思い出す。
ヨーグルトだと思って食べてみるとカッテージチーズだった。
昨夜自分でルームサービスメニューにチェックをつけて注文していたのだがチェックしたことを忘れていた。
カッテージチーズは日本で市販されているカップ状の容器の2個分くらいの分量。
こんなに食べると脂肪肝になるのではないだろうか、心配になる。
でも、本当においしい。何せ品数が多いので、ゆっくり食べていると出発の時間が来てしまった。
残念ながらコーヒーは2杯しか飲めず大きな皿一杯のフルーツには手を出せなかった。
こんな朝食を食べたのは以前イギリスに来て以来何年目であろうか。
でも、高い。4千円くらい。考えてみると朝食にこんなにお金をかけたのは何年ぶりだろうか。
日本のホテルだと大体2千円。高いところで3千円。
一度ホテル西洋銀座で食べたときには4千円くらい。
あそこの朝食は日本のホテルの中では一番ゴージャスなのではないだろうか。雰囲気も良い。
イギリスに来て以来かホテル西洋銀座で食べて以来かいずれにしろ数年ぶりだ。
日本の喫茶店のモーニングサービスの10倍である。
ふと、宿泊客はみんないつもこんな朝食を取っているのか知りたくなった。
7時にホテルのロビーに集合。
全員心なしか太ったように見える。
国内線が主に発着するガトウィック空港へと向かう。
遠いーーーい。ロンドン中心部から1時間くらいはかかる。
空港に着きフライトまでは時間があるのでデューティーフリーショップに立ち寄る。
国内便なのにデューティーフリーショップでショッピングできるのは不思議だ。何故だ?
ここで日本でも愛用しているクリニークのクリームシェ-ブを購入する。
シェービング用品オタクの私にとっての常備品だ。
私は自宅に常に10種類以上のシェービング用品を用意している。
その日の気分、時間、肌の状態で使い分けするのだ。
帰路のロンドンでのショッピングはシェービング用品を中心に行う予定だ。今から楽しみである。
クリニ-クのクリームシェ-ブ日本では3,500円だがここでは1,500円と安い。
日本より安いものをやっと発見した気がする。
ウィスキーのコーナーでは魅力的なものが何もなかった。
ブレンデッドウィスキーにしても一般的なシングルモルトにしても日本の量販店よりも高い。
珍しいウィスキーは空港では手に入らない。ハロッズショップがあったので何かの機会に使えるかもしれないと思いチョコレートを購入。
これは日本より安かった。時間があれば有名なチョコショップの製品の価格を日本と比較したかったのだが、残念、搭乗の時間だ。
ガトウィックはヒースローと異なりローカル空港なので日本人は少ない。
ここでやっと異国に来たと強く感じる。
スコットランドのインヴァネスへと出発する。
機内へ入り新聞を受け取る。スコットランドのローカルペーパーだ。
スコットランドへ一歩踏み出すことを実感した瞬間だった。
機内には強いアクセントの英語が飛び交う。
そう、日本で青森行きの飛行機に乗ったような感じだといえばお分かりいただけるだろう。
離陸してしばらくすると機内アナウンス。聞き取りにくい英語の中に「ブレックファスト」の語が聞こえる。
もしかするとこれから機内食が出るのか?ありがたいサービスだが今は満腹状態。
私の心配をよそに機内食が席に配られていく。配られたからには食べないと失礼になる。
サンドウィッチとジュース、そしてサラダの軽い朝食をほぼ全部片付けてしまった。
満腹満腹。また体重が増えた。
第三回
イギリスは高い(3)‥‥スコットランドに着地
第二日目午後
11時過ぎにインヴァネスに着いた。
空港が小さい。
我々以外には小さいプロペラがあるだけだ。飛行機のタラップを降りるとそこは空港ビルだった。
空港に我々を出迎えたトニーの案内で車へ。驚いたことに観光バスが1台我々を待っていたのだ。
たった6人の一行を。このバスのおかげで我々のスコットランドツアーは極めて快適だった。
トイレはあるし飲み物は飲み放題。禁煙ではあるがトニーの許可を得て最後尾の席で葉巻を吸わせてもらったし。
スコットランドの印象はとても寂しい。
家々はまばらで、人の気配が感じられない。
美しいシンメトリカルな石造りの家にはすべて屋根に煙突がある。多分暖炉があるのだろう。
冬の夜暖炉の前で葉巻を吸いウィスキーを飲んでみたい。
葉巻の火が消えたら長めのシダー片に暖炉から火をつけそのシダー片で葉巻に火をつける。
そんな光景を想像してみる。
牛と羊、まれに走っている野うさぎ、鹿を見ながら1時間半、ホテルに到着した。
ホテルはクレゲラヒーと言い、スペイ川に沿った小高い丘の上にあるカントリーハウス調のホテル。
こんなホテルに泊まりたかった。
私は大満足。
ウィスキー関係者の間ではつとに有名なホテルで、シングルモルトを取り揃えたバーが広く知られている。
部屋へ案内され、荷物を整理し、早速バーへと向かう。シングルモルトが数百本ある。
珍しい酒もありそうな予感がする。ランチ前に一杯やりたい。
食前酒としては何が良いだろうか。
このホテルから通訳の山内さんが合流する。
山内さんはこのバーでたまにバーテンダーの仕事もやっておりウィスキーに詳しい。
挨拶もそこそこに山内さんと相談しウィスキーを選ぶ。
Glenburgie、飲むのは初めて。柔らかく甘く食欲をそそる酒だ。
時間があったので短めの葉巻を吸ってみることにした。
日本から持参したロメオ イ フリエッタのチューブ入りの一本を吸う。
チューブ入りなので旅行には便利だ。
食前の一杯と一本、そしてバーの雰囲気。
完璧な食前のひと時。
でも、ディナーではなくランチだ。おまけにこれから仕事がある。
Glenburgieは1,200円くらいとリーズナブルだった。
実はこのホテルのシングルモルトの品揃えと知識はイギリスでは珍しく例外的である。
日本のバーは酒に関してマニアックである。しばしば度を越しているとも思われる。
ある面日本のバーは究極である。この件については今後色々な角度から紹介させていただく。
シングルモルト100種類以上のバーは東京だけでも何百軒あるのか見当がつかない。
オタク的な愛飲家も数知れず存在する。これは日本だけの特殊な現象である。
珍しいシングルモルトやブランデーをあらゆる種類飲めるのはうれしいことだが、
バーも常連客もあまりにマニアックになり道をきわめようとする様はちょっと息苦しくなることもある。
バーと真剣勝負をしているような客もたまに見ることがある。バーはもっと楽しんで使うほうが良いと思うんだけど…。
さて、スコットランド。
またまた食事である。昼食はサンドウィッチとコーヒー。
フランスパンとイギリスパンの間くらいの固さのやや大きめのパンで作られたオープンサンド、チーズや生ハム、
スモークサーモンそしてきゅうり、朝食を大小2回食べたにもかかわらず何個でも詰め込めることが出来る気がした。
美味。数えてはいないがかなり食べた。また満腹。
午後はクラガンモア蒸留所に出かけロケハン。
写真に収める場所を事前にすべてチェックしたわけである。
スペイ川の谷のくぼ地にひっそり隠れる美しい蒸留所は翌々日訪問することになっており当日は周囲から全景を撮影するのみ。
ウィスキーは飲めない。静謐の中にたたずむ蒸留所の白亜の建物は無駄がなく美しかった。
機能美なのか?約2時間撮影しホテルに戻ったのは6時ころ。夕食は7時半である。
すでに三食食べているのでなかなか空腹を覚えない。
バーでコーヒーを飲み短い葉巻を一本吸った。
ボリヴァーの.ペティコロナ。これは1,500円くらい、日本よりやや高い。
その後空腹にするためにスペイ川の岸辺の遊歩道を散歩することにした。
この遊歩道はスペイサイドウェイと言う。トレッキングに最適な整備された美しい道だ。サイクリングも出来る。
寒い、やはりかなり北にあるので(日本の稚内よりもだいぶ北でサハリンよりも北)5月末でも寒い。
10分くらい歩いてホテルに戻ることにした。
先方から2頭の馬が来た。乗馬も可能な道のようだ。
若い女性を乗せた馬2頭とすれ違った。乗馬はかっこいい。
馬も歩行者に対する接し方には慣れており蹴飛ばされるようなことはなかった。
ホテルには売店がありウィスキー関係の本、グラス、デキャンター等置いてあり一つプレゼントを購入した。
クレゲラヒーホテルが特別にボトリングしたウィスキーもあったが現在在庫があるのが1種類、1万5千円と高いので購入せず。
帰国後バーで飲もう。
夕食の頃には少し空腹になっていた。
このホテルは共用スペースがたくさんあり、ウィスキーはバーでも読書室でも居間でもどこでも飲むことが出来、
ディナーもさまざまな部屋で取ることが出来る。我々は個室でワインを飲みながら夕食をとった。
私はビーフステーキ、サラダと単純なメニュー。スコットランド名物のハギス(羊の内臓料理)をみんなでシェアしてみた。
日本でも食べられるがどうもにおいがきつそうなので敬遠していた。
そんな先入観は持たないほうが良い。実際は品があり軽くて甘みのある料理。絶品だった。
スコットランドの代表的なパブ料理であるが、ホテルではより洗練された形で提供していた。
ワインを飲み、ステーキ、サラダ、パンとたっぷり楽しんだ。
そして、やはりシングルモルト。
と言うわけで食後はバーに出かけた。
持参したロメオのチャーチルを吸いながらやや強めのウィスキーを飲んだのだがブランドは何だったのだろうか?
記憶にない。昼の葉巻も良かったが重いディナーの後カントリーハウスで良い酒を飲みながら葉巻を吸う、良い夢が見れそうだ。
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